晴暦3099年、其者祭如のハオ
晴暦3099年4月。

ここは、スーリア国の東端の港町「サン海花町」の港。

潮風に色あせ錆び付いた青色のスチール製のベンチに足を伸ばして、だらんと座っていた者がいた。

その者は、地下情報では「魔王の眷属」、「魔人の果て」とも呼ばれていた。

その者は、表の情報では「強欲の守銭奴」、「永遠の21才」とも呼ばれていた。

太楽の海花のハオ。100年近く昔と姿が変わらない者。

・・・

眼前には「緋の国の魔女の鴎威」が得物に手をかけていた。

・・・

「ほう♪チリチリとした感覚があったが、鞘に収めた状態でありながら臨界状態の刀かな?」

「まあ、味わうと良いです♪その暇があるとは思えないですけどね♪」

鴎威が二振りの刀を鞘から引き抜きかけたところで、鞘自体が消えた。

・・・

鴎威は、一歩、前へ歩んだ。

・・・

「歩んだ」はずだった。

すでにハオの目先に刃先が触れかかっていた。

瞬動や縮地ではなかった。全くの「間」が無かった。

だが、ハオにはその刃先は触れる事は無かった。

「!」

「ほう♪交換相転移か♪予測・予兆の出来ぬ業♪」

「あは♪すごいですね♪無時間で避けれる、さすが魔人の果て♪」

「いやいや、褒めなさんなって♪」

「これからが本番です♪消えてください♪」

・・・

鴎威は、刀術は、予めの動作が全く無く、現れず消えずの繰り返し。

そのような状況でありながら、ハオは鴎威の喉元を体勢を崩しながら踵で蹴飛ばし護岸のコンクリート壁に叩きつけた。

いや、鴎威はコンクリート壁にめり込んでいた。

・・・

「なかなか、うまくいきませんこと♪ひよっこの癖に、すばらしい♪面白い♪」

鴎威は意に介さない表情で言った。

「出てきなさい♪華斬りの霞桜糸♪」

・・・

緋の国から来た接岸中のフェリーの格納層の扉がゆるりと開き、見えない重い「何か」が降りてきた。