晴暦3099年、緋の国の音立花の鴎威
晴暦3099年4月。

ここは、スーリア国の東端の港町「サン海花町」の港。

客船、商船、漁船と行き来が多い。

入港の汽笛の音が響いた。

それに合わし、港の鐘が鳴り響いた。だが、港には人の姿が無い。一人を除いて。

中規模の国際航行フェリーが減速しつつ、停泊した。まあ、特に珍しいことも無い。

ただ、いつまで経っても、車両甲板の扉が開かない。

桟橋に一人だけ降りてきた。

向かう先には、潮風に色あせ錆び付いた青色のスチール製のベンチに足を伸ばして、だらんと座っていた者がいた。

「ようこそ、緋の国の魔女。いや、廃墟の魔女かな?」

「やあやあ、蛇の国の魔王の眷属。いや、忌まわしき魔人かな?」

魔人と呼ばれた者は、太楽の海花のハオ。100年近く昔と姿が変わらない者。

・・・

風の無きその場で、鴎威の上着がはためき、身に纏う様々な装が姿を現した。

・・・

「わざわざ、この地に来た?」

「ははは、前暦より続く我らを見下すか♪」

「帰りなさい。お願いではない。命令だ。」

「ははは、つぶされたいのかい?」

「やってみるか、雑物が?」

「瓦礫の山の王になったつもりか?」

「愚者に言われたくないわ♪」

「血が火になり、火が炎になり、業炎の灰塵となって巻き上がらん♪」

・・・

リアニン大陸極東の赤道直下の島国「緋の国」の訪人の「音立花の鴎威(おうい)」は、二振りの刀をさらけ出した。

創生魔女衆「九十九」の一人。

その刀、錬金学式装刀「阿・蔓包み(かずらつつみ)」在りし。

その刀、錬金学式装刀「吽・箱の庭(はこのにわ)」在りし。